なるみと読む徒然草
令和八年七月二十八日(火)
第五十五段 家の作りやうは、夏をむねとすべし
原文(円座輪読)
家の作りやうは、夏をむねとすべし。冬は、いかなる所にも住まる。暑き比わろき住居は、堪へ難き事なり。
深き水は、涼しげなし。浅くて流れたる、遥かに涼し。細かなる物を見るに、遣戸は、蔀の間よりも明し。天井の高さは、冬寒く、燈暗し。造作は、用なき所を作りたる、見るも面白く、万の用にも立ちてよしとぞ、人の定め合ひ侍りし。
今日は、『徒然草』第五十五段を、円座の皆さんと輪読しました。
昨日、一昨日は、人の世の乱れや、人の心の動きを描いた段が続きました。
現代なら週刊誌やSNSを思わせるような話題です。しかし、その文章は決して人を煽るものではありません。
円座では昨日、
「なぜ、その人は腹を立てたのか。」
という問いが生まれました。
その問いを持って読み返すと、古典文学というより、その時代を生きた人々の現実が見えてきます。
そして今日は一転して、住まいの話です。
兼好法師は難しい建築論を語るのではなく、
「京都は暑いでしょう。だから、このような家がよいのですよ。」
そんな穏やかな語り口で、暮らしの知恵を伝えているように感じました。
深読み先生が「息抜きではないでしょうか」と話されたことも、なるほどと思えます。
重い世相を描いた後に、風が通る家、浅く流れる水、明るい遣戸、そして暮らしの風情へと話が移る。
文章そのものにも、風が通っているようです。
円座ではさらに、現代の暮らしへと話が広がりました。
都市に人を集め、生産性を高める時代から、
AI、ロボット、人、自然、地球、宇宙。
それらが調和する、新しい暮らしへ向かっているのではないか。
ビルの中で野菜や米を育てる時代が来ても、
人は自然と遊離して生きることはできません。
そこで、一つの言葉にたどり着きました。
働くとは、「他を楽にする」こと。
人の喜びが、自分の喜びになる。
それが、人を動かす本当の活力ではないでしょうか。
だから第五十五段は、単なる住まいの話ではありません。
風が通る家を語りながら、
自然とともに暮らすこと。
そして、
風情を大切にすること。
その日本人の暮らしの美意識を、静かに語っているように思います。
七百年の時を越えて、兼好法師の言葉は、未来の暮らしを考える私たちにも、涼やかな風を届けてくれました。
合掌。
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