窯元日々雑感 徒然草 第六十一段

窯元日々雑感 徒然草 第六十一段

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​『徒然草』第六十一段

この段には、当時の上流社会におけるお産の風景と、それに伴う儀式や作法が記されています。

​御産を前にして、人々は白い装束※を身にまとい、悪霊を払うために弓の弦を鳴らす「鳴弦(めいげん)の儀」※を行うなど、さまざまな習わしを通して母子の無事を願いました。そこには、身分の高い家ならではの格式高いしきたりがありました。

​兼好法師は、そうした昔ながらの儀式や作法の記録を「いとめでたし(大変素晴らしい)」と書き留めています。一見すると、古い有職故実(伝統的な行事や作法)の記録のようにも見えます。

​しかし、なぜ人々はこれほどまでに細やかで厳かな儀式を作り上げ、受け継いできたのでしょうか。
そこにあったのは、お産を迎える不安と、新しい命への切実な祈りです。

​新しい命が無事に生まれてくるだろうか。
母親は健やかに、その時を越えられるだろうか。
​身分がいくら高くとも、出産の命がけの不安が変わるわけではありません。人々は自分たちにできるすべての作法を尽くし、ただ祈るような気持ちでその時を待ったのです。

​兼好法師が記録した古い風習の行間には、単なる形式にとどまらない、命を迎えようとする人々の深い情が息づいています。
​七百年の歳月を隔て、暮らしの形や医療は大きく変わりました。
それでも、「どうか母子ともに無事でありますように」と願う心は変わりません。

​昔の人々の不安と祈りが、今を生きる私たちの心にもそのまま響いてくる。遠い時代の人と、同じ思いの中で出会うことができる。

そこに、古典を読む面白さがあります。
​徒然草は、整えられた言葉の奥にある「人の有り様」を温かく受け止める視線に満ちています。
第六十一段もまた、厳かなお産の記録を通して、時代を越えて変わらない人の祈りを、静かに伝えてくれる一段です。

​※補足
​・鳴弦(めいげん)の儀式
​弦を弾いて「ベーン」と音を立てることで、病気や魔物(魔 concept / 怨霊)を追い払い、妊婦を守ろうとした儀式です。現代でいう「安産祈願」の最も厳格な形でした。
​・白装束(しろしょうぞく)
​出産は神聖であると同時に、命がけの「穢れ(けがれ)」と「危険」が隣り合わせの瞬間とされていました。そのため、産室や着るものをすべて白で統一し、清浄を保とうとしました。

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