嫋やかなこころを

嫋やかなこころを

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おはようございます。厳しく荒れた8月も後二日。今日の工房は朝から穏やかな日差しが降り注ぎ、蝉の声に癒されています。今年も何とか無事に夏を終えることができました。九月からは季節も変わり、年末に向けての仕事が始まります。いつものことですが、9月半ばにはお正月商品の下ごしらえをし始めます。今年は震災もあり経済が大きく落ち込み、皆様のこころも委縮しています。どの様な作品がお客様のこころに寄り添えるか、いろいろと考えながら下準備をしたいと思っています。

私は長く陶芸の道を歩ませていただきながら、常に思うことがあります。焼き物は単に使われる道具だけでなく、人の心の深層部まで繋がることのできる物だと考えています。よく私は「ハート・ツー・ハート」と言います。道具を超えた活きたこころとして通じ合うことができる物だと確信しております。

もう25年前でしょうか。私にとって大きなまた励ましのエピソードがあります。ここにきてまだ独立して間もない頃、展示会で一つのお湯呑を買われたお客様が、後日私の工房にやってこられ、「失明された友人に、買わせて頂いたお湯呑をプレゼントしたのですが、彼女が手のひらにそっとお湯呑をのせて、こんなにやさしいお湯呑があるのね、と言われた。」といいます。そして「心に釉薬の色も見える。」と仰ったと。私は何か自信を得たように思えました。間違いない、この世界(陶芸)には通じる道がある。この道を歩めば必ず伝え合う世界が生まれる。

今年は激動の年です。もしかしたらここからが始まりなのかもしれません。厳しく心が折れることが頻繁に起こるかもしれません。人は弱いものです。しかし人は心をつなげることで、柔軟に激動の波を超えることができると思っています。この時期こそ、嫋やか(たおやか)な精神が必要になると思っています。

工房の朝、静かに目と閉じ、祈りを捧げ、今日も丹田に力を入れ、仕事を進めます。

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